介護施設・高齢者施設で多い皮膚科疾患について

感染症あれこれ

介護施設や高齢者施設の現場では、「皮膚がかゆい」「赤くなっている」「ジュクジュクしてきた」といった皮膚トラブルが日常的にみられます。これらは一見よくある症状のように思えますが、実際には乾燥、感染、薬剤反応、生活環境など、複数の要因が複雑に絡み合って起こっています。
高齢者の皮膚は加齢によってバリア機能が低下し、わずかな刺激や環境の変化でも症状が出やすく、また悪化もしやすいという特徴があります。そのため、皮膚トラブルは「皮膚科の問題」であると同時に、「日常ケアの質」が大きく影響する領域でもあります。
本記事では、介護現場で特によくみられる皮膚症状を整理し、それぞれの原因や背景、そして介護スタッフとして押さえておきたい基本的な対応の考え方をまとめました。すべてを正確に診断することが目的ではなく、「気づく」「悪化させない」「早くつなぐ」ための視点として、日々のケアに役立てていただければと思います。

【痒み】痒みを訴えるケースは圧倒的に多く、複数の原因が重なることも多い。

1. 乾燥性皮膚炎(皮脂欠乏性湿疹)

  • 原因・病態:加齢による皮脂・角質水分の低下、バリア機能障害
  • 病原体:感染は関与しない(非感染性)

2. アトピー性皮膚炎(高齢発症型含む)

  • 病態:バリア機能低下 + 免疫反応異常
  • 病原体:感染ではないが、黄色ブドウ球菌の増殖が増悪因子になることがある

3. 接触皮膚炎(刺激性/アレルギー性)

  • 原因:尿・便による皮膚刺激、オムツ、洗浄剤、金属、軟膏など
  • 病原体:感染ではなくアレルギー・刺激反応

4. 薬疹(薬剤性皮膚症状)

  • 原因:服薬による免疫学的反応
  • 病原体:感染ではない(免疫反応)

5. 疥癬

  • 原因:ヒゼンダニ Sarcoptes scabiei
  • 病原体(寄生体):ダニ(節足動物)
  • ポイント:施設で最も問題化しやすい感染性疾患のひとつ
     ・角層内に寄生してトンネル(トンネル状皮疹)を作る
     ・接触で容易に感染

6. 真菌症(皮膚カンジダ症)

  • 原因:カンジダ属(Candida albicans など)
  • 病原体:真菌(酵母)
  • 特徴:皮膚の湿潤・密閉環境で発症しやすい(陰部・皮膚の間)

7. 白癬(みずむし・たむし)

  • 原因:皮膚糸状菌(Trichophyton rubrum など)
  • 病原体:真菌
  • 特徴:足白癬は施設入居者に非常に多い

【皮疹(赤み・発疹)】

1. 蕁麻疹(じんましん)

  • 原因:アレルギー、薬、感染、ストレス
  • 病原体:通常は感染なし(まれにウイルス感染に伴うこともある)

2. 紅斑性薬疹・固定薬疹

  • 原因:薬剤に対する免疫反応
  • 病原体:なし(免疫反応)

3. 帯状疱疹

  • 原因:水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が再活性化
  • 病原体:ウイルス
  • 特徴:神経の走行に沿って痛みと発疹

【ジュクジュク・びらん・滲出】

1. 細菌性皮膚感染症(とびひ・蜂窩織炎)

  • 原因
     ・黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
     ・溶連菌(Streptococcus pyogenes)
  • 病原体:細菌
  • 特徴:高齢者では発熱などが目立たないことが多い

2. カンジダ性間擦疹

  • 原因:カンジダ属(真菌)
  • 病原体:真菌
  • 特徴:皮膚の皺部で増悪、赤みと白い鱗屑

3. 褥瘡(じょくそう)

  • 原因:圧迫による局所の血流障害
  • 病原体:初期は非感染性、進行すると複数細菌の混合感染(黄色ブドウ球菌、大腸菌など)
  • 特徴:高齢者施設で非常に重要な管理領域

【乾燥・粉ふき(落屑)】

1. 乾皮症(ドライスキン)

  • 原因:加齢、入浴習慣、エアコン
  • 病原体:なし

2. 皮膚糸状菌症(白癬)

  • 原因:Trichophyton rubrum など
  • 病原体:真菌

【皮膚の腫れ・赤み・熱感】

1. 蜂窩織炎(細菌性)

  • 原因:黄色ブドウ球菌・溶連菌
  • 病原体:細菌
  • 特徴:境界が不明瞭な紅斑・腫脹、重症化の恐れ

2. 魚鱗癬類似の乾燥(環境性)

  • 原因:バリア障害
  • 病原体:なし

【かさぶた・びらん・皮膚破壊】

1. 皮膚掻破による二次感染

  • 原因:痒みによる搔き壊し → 黄色ブドウ球菌の感染
  • 病原体:細菌

【細菌によるもの】

  • 黄色ブドウ球菌
  • 溶連菌
  • (褥瘡で)大腸菌など混合菌

【真菌(カビ)によるもの】

  • 白癬(皮膚糸状菌:T. rubrum など)
  • カンジダ(Candida albicans)

【ウイルスによるもの】

  • 帯状疱疹(VZV)
  • 単純ヘルペス(HSV)

【寄生虫(節足動物)によるもの】

  • 疥癬:ヒゼンダニ

【非感染性(病原体なし)】

  • 乾燥性皮膚炎
  • 薬疹
  • 接触皮膚炎
  • アトピー性皮膚炎
  • 褥瘡(初期)

【皮膚がかゆい(最も多い)】

  1. 乾燥(皮脂欠乏)
  • 原因:高齢者は皮脂が少なく乾燥しやすい
  • 特徴:粉ふき、ヒビ割れ、全身に広がる
  • 標準的対応
    • 毎日保湿剤(ローション・クリーム)を塗る
    • 入浴時の石けんは最小限
    • 皮膚をこすらない
    • 衣類・寝具の乾燥に注意
      最も多く、重要。保湿は必須ケア。

2.接触皮膚炎(かぶれ)

  • 原因:おむつ、尿・便、洗浄剤、金属など
  • 特徴:赤み・ヒリヒリ・境界がはっきり
  • 標準的対応
    • こまめなオムツ交換
    • 洗浄しすぎない(シャワーのやりすぎで悪化)
    • バリアクリーム(皮膚保護剤)を使用
    • 悪化時は外用薬(医師へ相談)

3. 真菌(カンジダなど)

  • 原因:湿ったところで増える
  • 部位:陰部、乳房下、皮膚の間
  • 特徴:赤くジュクジュク、周囲にポツポツ
  • 標準的対応
    • 皮膚を乾燥させる(通気をよくする)
    • 医師へ報告し、抗真菌薬を使用
      ※ 介護側では清潔・乾燥を徹底

4. 疥癬(ダニ)

  • 原因:ヒゼンダニの寄生(感染力あり)
  • 特徴:強いかゆみ、夜に悪化、トンネル状皮疹
  • 標準的対応(※マニュアル化あり)
    • すぐに医療へ報告
    • 衣類・寝具の洗濯と乾燥
    • 他入居者への感染予防
      施設では特に注意すべき疾患の1つ

【赤い・ポツポツしている】

1. 薬疹(薬のアレルギー)

  • 原因:内服薬が合わない
  • 特徴:全身に広がる赤い発疹、かゆみ
  • 標準的対応
    • すぐ医師に報告
    • 新しい薬を開始した前後に注意する

2. 蕁麻疹(じんましん)

  • 特徴:突然のかゆい膨らみ、数時間で消える
  • 標準的対応
    • 冷やす
    • くり返す場合は医師へ

【水ぶくれ・ピリピリ痛い】

1.帯状疱疹

  • 原因:ウイルス(VZV)の再活性化
  • 特徴:片側だけ、帯状に発疹、強い痛み
  • 標準的対応
    • すぐ医師へ
    • 他者への接触に注意(感染力あり)

【ジュクジュク・悪臭・皮膚破壊】

1. 褥瘡(じょくそう)

  • 原因:圧迫による皮膚壊死
  • 標準的対応(基本マニュアルあり)
    • 体位変換
    • 皮膚の保湿
    • 皮膚を乾燥させすぎない
    • 専門的な処置は医師・看護

2. 細菌感染(とびひ・蜂窩織炎)

  • 原因:黄色ブドウ球菌、溶連菌
  • 特徴:腫れ・熱感・痛み・膿
  • 標準的対応
    • 発熱・腫れがあれば速やかに医師へ
    • 湿ったガーゼ放置は悪化要因

今回紹介したように、介護・高齢者施設でみられる皮膚トラブルの多くは、乾燥、刺激、湿潤、感染といった比較的身近な要因から始まります。しかし、その初期サインは小さく、「少しかゆそう」「少し赤い」といった変化として現れるため、見過ごされやすいのも事実です。
皮膚トラブルを重症化させないために最も重要なのは、日常的な観察と基本的なケアの積み重ねです。保湿、洗いすぎない清潔、通気性の確保、体位変換といったシンプルな対応が、結果的に薬の使用や医療介入を減らすことにもつながります。
介護スタッフは、入居者の皮膚に最も近い存在です。その「いつもと違う」という気づきが、感染拡大の防止や重症化の予防につながります。本記事が、皮膚トラブルを特別なものとして構えるのではなく、日常ケアの延長として捉える一助になれば幸いです。