インフルエンザの原因であるインフルエンザウイルスには、A型、B型、C型がある。B型とC型はヒトにだけ感染し、A型はヒト以外にも、トリやブタなど、ほとんどの動物に感染する。したがって、A型が変異しやすく、重症化しやすい。通常、毎年秋から広がり始め、2月ごろにB型と入れ替わることが多い。C型は、子供の間で広がりやすく、いわゆる風邪のひとつになっている。したがって、インフルエンザワクチンは、A型とB型のウイルスに対する免疫をあげるために作られている。
インフルエンザウイルスのA型には多くの亜型が存在する。ウイルス粒子の表面に発現しているヘムアグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)が、A型の亜型を決めている。HAが16タイプ、NAが9タイプ存在し、その組み合わせで合計144(16 x 9 = 144)の亜型が発生する可能性がある。このうち、現在、ヒトの間には2009年に発生した、ブタ由来の遺伝子の一部を持ったHAが1型、NAも1型のH1N1のウイルス(2009年に世界流行型となり、世界的にはH1N1pdm09、日本では新型インフルと呼ばれている)、そしてHAが3型、NAが2型でH3N2型(香港型と呼ばれている)の2つのタイプのウイルスが流行している。一方、B型は山形系統とビクトリア系統の2つのタイプが流行している。
これら2つのA型ウイルスと2つのB型ウイルス、計4つのウイルスが混合され、ワクチンとして毎年製造されている。ここ数年はこれら同じ型のウイルスが流行しているが、少しずつ遺伝子に変異が起こっているため、次の季節にはどのようなウイルスが流行するのかが検討され、国立感染症研究所が決定し、ワクチンメーカーはその決定されたウイルス株を用いてワクチンを製造している。
インフルエンザのワクチン候補として選定された4つの株は、21日目にヒヨコが生まれる発育鶏卵(ニワトリの有精卵)に接種して、ウイルスを大量に生産する。発育鶏卵を温め始めると、血管が発生し、それに伴って鶏胚が成長し、羊膜という透明で薄い膜の中で卵黄と卵白を栄養分として、日々育っている。温め始めて11日目にウイルスを接種し、その後3日ほどすると、血液をろ過した際に生じる尿(漿尿液)をためておく場所である漿尿膜中に、大量のウイルスがたまってくる。この漿尿膜を集めて、ウイルスを精製する。上記4種類のウイルスをそれぞれ精製し、これらを混ぜてワクチンとして製造している。
このように毎年、インフルエンザワクチンの製造には大量の発育鶏卵が用いられている。1人分のワクチンに、1~2個の発育鶏卵が必要と言われている。ところが、昨年秋から今年春にかけて、各地の養鶏場で鳥インフルエンザウイルスに感染し、鶏舎内の鶏すべてが処分されるという事象が相次いだ。したがって、場合によってはインフルエンザワクチンの製造に十分な発育鶏卵を準備できない状況になるかもしれない。そこで、大きなタンクを用いて培養した細胞で、インフルエンザワクチンを製造する方法も検討されている。