── 感染症への警鐘:見直され始めた感染伝播ルート──
インフルエンザウイルスの場合
これまでインフルエンザウイルスは「飛沫感染が中心」と説明されてきました。咳やくしゃみで出された大粒の飛沫が1〜2メートル以内で落下し、近距離での接触が主なリスクとされてきたためです。しかし近年、世界の研究者の間では インフルエンザでも新型コロナと同様にエアロゾル(微小粒子)による空気中の伝播が無視できない との認識が広がっています。
特に2013年以降、米国・香港の研究グループは「咳だけでなく、普通の呼気にもインフルエンザのウイルスRNAが含まれる」ことを報告し、換気の悪い部屋では長距離伝播が起こりうると指摘しました。
WHOやCDCでもこの議論が強まり、2020年以降に新型コロナで空気感染が明確になったことを契機に、インフルエンザの伝播機序そのものの再評価 が進んでいます。
日本でも、一部の専門家の間では「エアロゾル伝播は十分あり得る」との見解が共有されつつありますが、一般的な注意喚起にはまだほとんど反映されていません。
学校や職場の対策も「マスク・手洗い・うがい」が中心にとどまり、換気やCO₂モニター活用の重要性は、残念ながら十分浸透していない のが実情です。
AMR(薬剤耐性菌)の場合
さらに深刻なのは AMR(Antimicrobial Resistance: 薬剤耐性菌)における“空気伝播”の兆候があることです。
AMRは「抗生物質が効かない細菌」の総称で、世界的に最も警戒される公衆衛生上の大きな脅威です。
これまでは他のほとんどの細菌と同様、接触感染や飛沫感染が主な伝播ルートとされてきました(結核菌は空気感染とされています)。が、近年、空調管理が不適切な医療施設や介護施設などで MRSA、緑膿菌、アシネトバクター などがエアロゾル状で環境中に広がる可能性が繰り返し報告されています。
以下は、参考のためgoogle AIでの検索結果を示しています。
1. MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
- 特徴: 黄色ブドウ球菌が、多くの抗菌薬(β-ラクタム系)に耐性を持ったもの。
- 場所: 主に院内感染で、皮膚・組織感染症、肺炎、敗血症を引き起こす。
2. CRE(カルバペネム耐性腸内細菌目細菌)
- 特徴: 最強の抗菌薬の一つである「カルバペネム系」に耐性を持つ腸内細菌(大腸菌、肺炎桿菌など)。
- 懸念: 治療が非常に困難なため、世界的に最も警戒されている耐性菌の一つ。
3. VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)
- 特徴: 重症感染症の最後の切り札とされる「バンコマイシン」が効かない腸球菌。
- リスク: 高齢者や免疫力が低下している人で敗血症などの深刻な感染症を引き起こす。
4. 多剤耐性緑膿菌(MDRP)
- 特徴: 緑膿菌が、カルバペネム系を含む複数の抗菌薬に耐性を持ったもの。
- 場所: 医療機器などを介して、免疫力の低下した患者に感染しやすい。
5. 多剤耐性アシネトバクター(MDRA)
- 特徴: 偏性好気性のグラム陰性桿菌で、環境中で長期間生存できる。
- 状況: 多くの抗菌薬に耐性を持ち、院内感染で問題となる。
6. ESBL(基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)産生菌
- 特徴: 大腸菌や肺炎桿菌が、第3世代セファロスポリン系などの抗菌薬を分解する酵素(ESBL)を作るもの。
7. 薬剤耐性肺炎球菌(PRSP)
- 特徴: 市中感染(一般社会)の肺炎や髄膜炎の主要な原因菌。ペニシリンが効きにくい。
特に英国、カナダ、シンガポールなどでは「病室の換気量が低いと、AMR菌が空気中で検出される」との研究が増加と報告しています。
日本でも大学病院や療養施設で同様のデータが出ており、空間に漂う微粒子としてAMR菌が伝播するリスク が現実味を帯びています。
もしこれが一般的に起こりうる現象であるなら、従来のアルコール消毒による「手指衛生」や「マスク」を中心とした対策だけでは不十分になります。
換気・空気清浄・CO₂管理・空調の見直しが細菌対策にも必須となる という、感染対策のパラダイムシフトが避けられません。
なぜ今、この問題を取り上げるべきか
- ウイルスも細菌も少なくとも一部は、空気中で“長くとどまる”ことが共通のリスクになる
- 高齢化が進む日本では、空気環境の悪い病院や介護施設での集団感染の影響が極めて大きい
- AMRは、これまで絶対的な治療薬であった抗生物質が効かないため、一度広がれば収束は極めて困難
- 換気対策は、費用対効果が非常に高いにもかかわらず、日本社会では十分整備されていない
特に、CO₂濃度1,000ppm以上の密閉空間では、ウイルス・細菌いずれも滞留しやすく、1人の感染者が多数の人に広げる「スーパー・スプレッダー的な状況」が生まれやすくなります。
まとめ──“空気”を見直すことが最大の感染対策
インフルエンザもAMR菌も、「空気中の微粒子としてどれほど広がるのか」という視点が、世界で急速に注目されています。
日本でも専門家コミュニティでは議論が進んでいますが、社会全体の理解はまだ追いついていません。
だからこそ今必要なのは、
“空気環境が感染リスクを左右する”という視点を広く共有し、換気・空気清浄・CO₂モニターを標準化すること。
これは介護施設、病院、学校、職場、家庭すべてに共通する、最も効果の高い対策であると考えます。

