ノロウイルスは秋の終わりごろから冬の中頃までが流行期間で、小児に多い感染症である。このウイルスに感染すると、2~4日の潜伏期間の後に1~2週間もの長期にわたる発症期間を迎える。症状は、腹痛、下痢、胃痛や胃痙攣、頭痛、発熱などである。
特徴は、10~100個程度のごく少量のウイルスでも、人に感染することである。ところが、感染した人の便や吐しゃ物の中には、大量のウイルスが含まれている。したがって、不十分な手洗いなどが原因となる接触感染(糞口感染ともいわれる)が、主な感染伝播ルートとなる。ただ、絨毯などに吐しゃされ、慌てて乾燥させようとした場合には、空気中にたくさんのウイルスが舞い上がり、空気感染を起こすことも報告されている。また、下痢症状で医療機関を受診した患者が使用したトイレのドアノブなどを触ったために、別の病気で受診した患者が感染する、いわゆる二次感染例が多く見られた。
このウイルスには効果的な抗ウイルス薬はなく、また予防のためのワクチンもない。人には簡単に感染し、腸管の細胞で凄まじい勢いで増えるのであるが、実験室で培養細胞を用いて増やそうとしても、なかなかうまく増えてくれない。このため、抗ウイルス薬やワクチンの研究を行う実験系がないことから、その対策が遅れている感染症である。
問題なのは、このウイルスは、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスのように、ウイルスの表面にエンベロープと呼ばれる脂肪の膜を持っていない。したがって、アルコール消毒では効果がない。このノロウイルスの広がりが問題となった初期のころは、この点の啓発が不十分で主にアルコール消毒が行われていたことから、二次感染例が多発していた経緯がある。
ノロウイルス対策として重要なのは、次亜塩素酸ナトリウム(市販の家庭用塩素系漂白剤・ハイターやミルトンなどを薄めて使用)での消毒が必須である。また、アルコール消毒は効かないが、石鹸をつけて丁寧な手洗いを数回繰り返すと、ほとんど流せるので効果的という実験結果もある。
もう一つは、繰り返し何回も感染することである。しかも、感染を繰り返していると、体内でウイルスを産生して放出していても、自覚症状がない、いわゆる無症状、もしくは不顕性と呼ばれる感染状態になりやすくなる点も問題である。最近では、調理担当者は症状の有無では判断できないので、定期的に検査し、感染の有無を確認するように義務付けられている。